この研究は、合衆国においても日本においても注目されることが少なく、未開拓の研究分野であるハワイ日系人を取り上げ、ハワイ日本人移民史の空白を埋める作業として、文化変容をキーワードに、社会史のアプローチを用いて考察し、論文ならびに著書として研究成果を発表した。特に今まで全く取り上げられることのなかった日本人移民の文芸活動(俳句、短歌、川柳を中心に)を取り上げた。すなわち、ハワイ日本人移民は文芸作品という媒介を通して、その体験の諸相をいかに自ら表象していたか、時代の変化にどのように対応し適応していったかを、作品分析と歴史分析を交錯させて社会史的に考察した。この作業は、日本人移民史研究に新たな方法を提示したものである。 本年度は特に、収集した数千に及ぶ作品のコンピュータ入力を行い、今後使用可能なデータベース化した。そして、そのデータを用いて、代表研究者は、第二次世界大戦期のハワイ日系人の忠誠心、愛国心、アイデンティティを分析して論文を執筆し、研究分担者は特に女性移民の生活と心情を分析する論文を執筆した。移民たち自身の諸経験の表象である作品を中心に据えることにより、ハワイ内部で植民地化された日系人社会における彼らの体験を、彼らの視点から捉え直すことを行った。 また、日系人の文芸作品は主流社会にはほとんど知られていないので、研究の成果として、データベース化したハワイ日系人の俳句と短歌から約千作品を選んで英訳・出版し、アメリカにおける学会で配布するなどして、主流社会にむけて発信した。
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