本研究は、20世紀英国の対外文化政策におけるパブリシティ戦略が、国内社会の文化変容を背景に変遷を遂げた様相を、いくつかのケーススタディーをもとに実証的研究と文化研究論の視点から検証し、その成果について考察しようというものである。 初年度である本年度は、まず20世紀の英国内の文化状況について整理を行った。大英帝国低落から終焉を体験した英国社会において、熱狂的なナショナリズムの高揚が20世紀前半の両世界大戦時の対抗文化プロパガンダに反映され、「英国的」文化という一元的なイメージ作りが20世紀後半の冷戦期に仕掛けられた情報戦に利用されていたことがわかった。上記の研究成果については、その一部を下記の論文集にまとめた。 また、一元的ナショナリズムはその反動として社会の多文化化を促進し、変容した英国像というものが20世紀後半から21世紀に向けての英国のパブリック・ディプロマシー構築の一要素となっていった経緯も再確認した。この際、政府主導の文化称揚政策もさることながら、創造産業の躍進、情報のグローバル化と(ニュー)メディアの隆盛がこれに大きく貢献したことはいうまでもない。 さらに、英国の対外政策をとらえる視点として、これまでの研究経過を総括する意味で、「戦争」というコンセプトからの事例研究を行った。そのひとつは、戦間期・第二次世界大戦における対抗プロパガンダ政策、もうひとつは冷戦期のソ連・東欧共産主義諸国に対する特殊な文化介入についてである。前者の研究成果は下記の論文集にその部が含まれ、後者については、現在英語による研究論文を執筆中である。 以上の研究を行う上で、2006年夏の英国出張の際に、ロンドンのインペリアル・ウォー・ミュージアム、チャーチル・ミュージアム、リバプールの第二次世界大戦ミュージアムを訪問したことは有益であった。
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