本研究の目的は、大衆への普及が過去10年以内という点で新しいメディアと位置づけられるインターネットと衛星放送の普及が、中東地域の生活空間、政治的意思の形成、政治的意思形成の場となる公共空間にいかなる変容をもたらしているのか、とりわけ女性たちの政治的意思決定のプロセスを調査・分析することである。 平成18年度は2004年以降に発表された中東地域の女性に関する論文や著作のサーベイ及びモロッコの複数の都市でフィールド調査を行った。 今回のモロッコでの調査ではインターネットカフェを中心にアンケートを行い男女合わせて約120名の回答を得た。また衛星放送等の受信状況に関するインタビュー調査を実施した。その結果、都市部の10代後半、20-30代の女性にとって、職業、婚姻状況など社会的な諸条件を問わず、インターネットが身近なツールであり、コミュニケーションの場となっていることが判明した。衛星放送については、とりわけ汎アラブ放送の浸透により、他のイスラム地域の女性らの様子がアラビア語で放映されるためより幅広い年齢層に訴求力を持っている。これら両方のメディアの影響については、今年度と来年度に実施予定の他地域での調査結果とあわせて総合的に考察する必要がある。 モロッコでは1999年以降「人間開発」に力が注がれている。また2004年には妻が離婚を請求する権利や、離婚後再婚しても母親が子供の養育権を維持することができるなどの内容を盛り込んだ民法改正が実施され、女性の更なる社会進出を促す契機となった。モロッコでは2007年9月7日に総選挙が実施されるが、その分析を通して、昨年度の調査のフォローを行う必要がある。
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