本研究の目的は、大衆への普及が過去10年以内という点で新しいメディアと位置づけられるインターネットと衛星放送の普及が、中東地域の生活空間、政治的意思の形成、政治的意思形成の場となる公共空間にいかなる変容をもたらしているのか、とりわけ女性たちの政治的意思決定のプロセスを調査・分析することである。 平成19年度は、2007年9月7日にモロッコで実施された議会選挙を中心に調査をおこなった。 まず、前国王顧問のファウド・アル・ヒンマ候補の選挙キャンペーンに同行し、ラバトやカサブランカ、マラケシュ、フェズといった大都市ではない農村部の選挙区での選挙活動の実態を、女性の政治参加の観点から調べた。アル・ヒンマ候補の選挙区は、ベングリラというモロッコ中部の地域である。電気は通っているが、車以外の交通手段がなく、また基礎教育課程の学校も十分に整備されていないため、学校に通っていない児童は多い。従って、このような地域での選挙活動は、実際に村落を訪問し、男性の集会、女性の集まりでそれぞれの要望を直接聞き、自らの政策を説明することが中心となる。インターネットがほとんど普及していない地域での女性と政治との関わりを、昨年おこなった都市部での状況と比較するための調査であったが、都市部と農村部での格差が浮き彫りとなった。今回の総選挙には、国際選挙監視団が来訪したが、その受け入れ機関となった、モロッコ人権同盟会長のアフマド・ハルザーニー氏にもインターヴューをおこなうことができた。さらに国際選挙監視団による、選挙終了後の総括のための記者会見にも出席し、選挙監視員および選挙をフォローしたモロッコ内外のジャーナリストと意見交換をおこなった。
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