本研究の目的は、大衆への普及が過去10年以内という点で新しいメディアと位置づけられるインターネットと衛星放送の普及が、中東地域の生活空間、政治的意思の形成、政治的意思形成の場となる公共空間にいかなる変容をもたらしているのか、とりわけ女性たちの政治的意思決定のプロセスを調査・分析することである。 平成20年度は、昨年度に実施されたモロッコの議会選挙に関する調査の分析と、メディアと民主化の分析をおこなった。 モロッコは、世銀の分類では低中所得国で、貧困ライン以下の人口の総人口に対する割合でみた場合、地方村落部では、5人に1人が貧困ラインを割り込んでいる計算となる。豊かな農業国であるはずのモロッコに貧困が生じた背景には、1980年代の構造調整政策、広大な国土と人口の分散、人口の都市部への流入などがあげられる。モロッコ政府は貧困対策として、2002年から準備をすすめ、2005年5月に国家人間開発イニシアティブ(INDH:Initiative Nationale pour le Devepollement Humain)を発表した。実施予定期間は2006年から2010年までの5年間で、約1400億円をかけ、403の村落(コミューン)と264の都市部の地区を対象とした大規模な社会開発プロジェクトとなっている。 このイニシアティブは、国王主導のプロジェクトであるが、村落や市町村など様々なレベルの自治体単位で計画をたて応募し採用されて初めて実施されるというボトムアップの「参加型アプローチ」を取っており、民主化プロセス推進を支える役割も果たしている。さらに女性の識字率向上、コンピュータ利用訓練を含む社会参加を促進するプロジェクトも多く実施されており、特に農村部の女性の経済的自立やインターネットの普及を促すものであり、今後の女性の政治参加促進の基盤となっている。
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