本研究では、法曹(主に弁護士)と医師を対象に、職場と家庭における性別役割分業の実態について検証した。法曹(主に弁護士)には、質問紙調査を実施(回収数1874)、医師にはインタビュー調査を実施した(11名)。 知見としては、「弁護士の入職経路」では、男性は女性より、独立時に学校関係のネットワークを利用する傾向があり、所得面等で有利になっていた。「弁護士の専門領域」では、女性は男性より、個人対象の感情労働を伴う領域に集中する傾向があり、所得が低い傾向があった。「弁護士の育児支援策』では、育児休業制度のある事務所は少なく、育児支援策のある法律事務所の女性ほど子供を持つ傾向が多い。「弁護士の辞めたくなった経験」については、女性が男性より多く、仕事に自己実現を求め、業務内容で差別経験のある女性ほど多かった。「弁護士の家事分担状況」では、女性は所得、婚姻状況、子供の数などによって違いがあったが、男性は性役割観のみが家事時間に影響していた。「女性法曹のキャリア移動比較」では、弁護士と、裁判官・検察官の間で移動パターンが大きく異なることがわかった。 医師の調査では、女性は男性に比べ、専門領域に偏りがあるが、性役割観に基づく偏見・差別・選好よりも、誘因の差違あるいは構造的・制度的要因によって偏りが生まれている可能性が高いことが明らかになった。また、弁護士と医師とでは、働き方の柔軟性が大きく異なり、それが家庭との両立状況の違いに影響していた。 本研究の意義は、(1)近年、女性割合が増加している、専門職(法曹・医師)の職場と家庭におけるジェンダー差の現状と課題を明らかにしたこと、(2)2つの専門職の比較調査を行うことで、職場と家庭におけるジェンダー差について、特定の職業の枠を超えて一般化できる知見を得られることである。今後は、医師を対象に質問紙調査を行い、法曹と医師の計量的比較研究を実施予定である。
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