I 背景・目的 健常成人を対象として運動負荷時の心電図再分極過程の変化とその性差の有無を、交感神経β受容体遮断薬を用いて検討した。 II 対象・方法 対象は若年健常成人16名(男性8名、女性8名)である。まず3分間のエルゴメーター負荷試験を行い、その後15分間安静臥床させた(コントロール試験)。次に交感神経β受容体遮断薬である塩酸プロプラノロールを静注し、再びエルゴメーター負荷試験を行い、終了後安静臥床した。各試験の前後で血中のカテコラミン、血清電解質、血糖値を測定した。心電図で測定したパラメータはRR間隔、V5誘導におけるQT時間、QTc時間、T波振幅である。各パラメータの時間経過およびその性差を検討した。 III 結果 (1)先行RR間隔は安静時、運動時とも男性が女性より長く、プロプラノロール負荷後はRR間隔は延長したが、変化の程度に男女差はなかった。(2)T波振幅は男性のほうが女性よりも高く、男女とも運動時に低下し、プロプラノロール負荷後は運動時および運動後ともに有意に増加した。(3)全経過を通して女性の方が男性に比しQTc時間は有意に長かった。女性はプロプラノロール負荷後に、運動中のQTc時間は有意に延長したが、男性は有意な変化を認められなかった。(4)女性において、運動後にU波が増大し、T-U complexを形成する例が認められたが、プロプラノロール負荷後にはこのような現象は消失した。 IV 考察 運動中や直後には心室再分極過程の変化が認められ、これらの変化は、交感神経緊張の影響を受けていることが示された。運動時の交感神経による再分極化過程の修飾は、男性よりも女性の方に大であった。女性は運動負荷時に交感神経緊張時による心室再分極過程の変化を生じ易く、不整脈や運動負荷心電図に見られる性差との関連の可能性が示唆された。
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