チェンナイ市における調査によって、ITセクターに働く女性集団ならびにそれ以外の専門職セクター(医師・弁護士・エンジニア、編集者、自営業など)、大学生集団などに対し270の質問票による回答を得た。またこの集団とは別にそれぞれの部門における面談調査を合計100名に行い、成果を現在整理分析中である。インドにおけるカースト制の中枢装置としてのカースト内婚を維持するためのカースト内見合い婚の比率は依然として高く、ダウリ(女性側から花婿側に支払う高額な金品)の支払いも続いているものの、ITセクターの女性群ではこれらに対する批判が他グループよりも多かった。恋愛婚と恋愛見合い婚の希望者が他グループよりも比率として多い状況は、職場環境における男女交流、ピアグループの存在と低カーストから階層上昇を遂げた女性が多いために適当な配偶者がカースト内見合い婚によっては見出しにくいという事情があると思われる。こめ結果ダウリの支払いについても授受そのものを否定する比率が他集団より高かった。調査の当初段階では高収入・多元的な視野を得られるグローバルな顧客との接触・専門性・ピアグループの存在、低カースト出身者の進出などによる職場意識の変貌をITセクターに予測し、他セクターとの対比を予定していた。しかしITセクター以外にも上記の条件にあてはまる職場として、例えば弁護士や医師といったセクターの女性たちが同様な反応を示すことが面談調査によって明らかになってきた。他方そのようなピアグループが存在しない女性の場合、恋愛婚やダウリ拒否に向かう可能性は小さいということも面談調査のなかで示された。インドにおける縦関係の中枢のひとつである世代的・ジェンダー的に編成されたカースト制における家父長制のパワーを弱体化させる機能をもつピアグループの存在を予期させる結果となった。今後はこのようなピアグループの存在を可能とするようなセクターとそれ以外のセクターにおける差異を分析の対象として調査を続けたい。
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