本年度は、設計論およびナラティブ論の理論的研究を行うとともに、それをもとにした具体的事例研究への適用を試みた。 第一に、設計論をめぐる技術哲学の問題状況を掘り下げ、その成果の一部を「技術の哲学と倫理という課題」および「技術というナラティブ」などの論文、口頭発表として公表した。この中では、人工物の客観的な「機能」に織り込まれた主観-客観関係を「ナラティブ」をキータームとして理解するべきことが主張され、この議論装置を元に倫理を問う方途が検討された。これと平行して、組織の倫理学、ステークホルダ・アプローチについても研究し、集団責任をめぐる倫理学的論争や、科学技術の研究倫理と組織の倫理の関係等を検討した。この成果は、報告書で詳しく述べられたほか、『応用倫理学事典』の中項目に盛り込まれている。 第二に具体的事例への本アプローチの適用として、環境倫理学・環境社会学の研究者との共同作業や、医療技術の思想史、脳神経倫理学などの研究者とのセミナーを通じ、人工物の志向性論や技術のナラティブ論の有効性について検討・検証を行った。
|