本年は、東方修道霊性における古典選集である『フィロカリアI』を東京大学教授宮本久雄氏と共訳し刊行した。桑原は、修道生活の創始者であるアントニオス、そして東方修道制を体系化したエウァグリオスの訳出を担当した。論文としては、トマス・アクィナスによる修道霊性全体の位置づけを明らかにした「トマス・アクィナスにおけるカリタス理論のキリスト教的意味について」、および西方キリスト教世界における修道制を通史的に概観した「西方修道制における二つの伝統-西方修道制における二つの伝統」、さらには托鉢修道会の展開と意義を明らかにした「托鉢修道会の時代」を著した。学会活動を通しては、「宗教色なき宗教教育?-『心のノート』をめぐる諸言説の検討-」と題してカトリック教育学会で発表を行った。これは、カトリック的倫理教育と日本の公教育における道徳教育との特質を比較検討することを意図したものである。また同じくカトリック教育学会において、同学会の編集委員長として「戦後カトリック教育の歩みと展望」と題する座談会を企画・実施した。この座談会は、桑原の司会のもと、カトリック司教、神学者、修道女、そして長年宗教・倫理教育に携わった信徒教員の代表者に発言を求めたもので、近代以降成立した教育修道会の活動としてのカトリック学校が現在直面する危機の背景として、20世紀におけるカトリック教会に大変革をもたらした第二バチカン公会議前後の状況を振り返ることを意図したものである。この座談会およびその総括については2008年8月刊行予定の同学会誌『カトリック教育研究』に掲載される予定である。また、日本倫理学会においては、過去蓄積してきた「ワークショップ」の成果にもとづき、2008年度大会の正式プログラムに取り上げられた「主題別討議」として、「「道徳教育」(ないしは「心の教育」)の倫理学的意義についての検討」を実施責任者として企画しつつある。
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