研究概要 |
本年は、昨年に引き続き、知覚と行為の関係に焦点を合わせて、この点を知覚研究を行っている心理学者との共同討議を通して心理学の歴史のなかで確認する作業を行った。その成果は、日本心理学会のワークショップで発表された。さらに、色彩現象を取り上げて、色彩知覚の持つ建築空間の中での役割を建築家との討議を通して明らかにすることを試みた。また、アメリカ・サンディエゴ大学の哲学者、Jonathan Cohen氏を招いたワークショップを行い、Cohen氏の色彩に関する関係説を題材に議論を行った。こうした議論を通して、色彩の「世界内存在」とその多次元性を解明し、知覚の「生態学的現象学」のモデルケースを確立することを試みた。染谷は二つの問題を考察した。第一は生態学的アプローチが知覚錯誤をどのように解釈するのかという問題であり、第二はアフォーダンスの存在論地位の問題である。前者については、見間違いや聞き間違いが事実と表象内容との不一致ではなく、環境の事実を特定する情報を探し出せない失敗(情報探索の努力不足)であることを明らかにした。知覚錯誤を行為の失敗と類比的に把握し、知覚表象主義からのより一層の脱却を図った。後者については、アフォーダンスを生物の行動を支える環境資源とするエドワード・リードの見方を他の生態心理学研究者の意見と比較し、アフォーダンスを資源とみなす意義を取り出した。いずれの成果も、2007年7月に横浜で開催されたThe International Society for Ecological Psychology,14th International Conference on Perception and Actionにおいて発表され(前者はポスター発表、後者はシンポジウム)、海外の生態心理学研究者と活発な議論を交わす機会を得た。
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