社会規範の生成という視点から社会哲学と宗教論にかかわる原理的考察を積み重ねてきた。考察は、(1)社会および国家と規範とのつながり、(2)宗教と社会規範との結びつき、(3)近代日本人における規範意識・無意識、の三方面で展開された。(1)では、(プラトンやヘーゲルの国家論とともに)とりわけホッブズの国家論の研究をおこない、最新の研究知見をふまえつつ、権力・権威と宗教との関係、自由と必然との関係について独自の見解を得た(これについては論考を準備中)。また、ヘーゲル以降の展開を考慮し、ドイツの20世紀前半の社会思想ならびにフランス現代思想(とくにドゥルーズの欲望・資本主義論)をも視野に収めた。(2)では、(ルター以降の宗教論を辿り直しつつ)とくにフォイエルバッハの宗教論を検討した。またこれと併せて、インドの社会・宗教・文明を考察に組み込む必要を感じ、インドの現地調査を試みた(その一部を浜松医大『NEWSLETTER』に報告)。(3)では、近代日本の文学・思想(とくに伊藤整、戸坂潤、三木清ほか)を研究しこ今日まで「日本人の伝統的な宗教性」として受け継がれている日本人の思惟様式とその「教養」の原型を把握した(名古屋哲学研究会・日本思想史部会にて複数回報告)。以上の三方面の考察を通じて、社会規範の根本条件として(生命論からすでに得ていた)<安らぎ>(自己身体の底点)に加え、<済まなさ>(宗教性・根底的第三者性)および社会的相互評価(水平的第三者性)という二つの第三者性を新たに析出した。その上で、ここに得られた観点を終末期医療における倫理の場面に適応し、親密な二者関係と社会制度との共通根源を<臨床的真実>として探った(唯物論研究協会シンポジウム報告、日本哲学会<共同討議II:生死とケアの哲学>論文)。
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