研究概要 |
<倫理的ネットワーク>の視点から「常識」の構造と変容プロセスを考察した。具体的には,ものと情報と人が境界を越えて交流し合う「グローバル世界」が到来するとき,「常識」において何が変化し,変化のなかで何が持続するかを見極めるために,三つの視角から考察を進めた。一つは生命倫理、医療倫理のケースであり,とくに終末期医療のうちにコンセンサスとコモンセンスのつながりを探ることを通して,最小限主義の倫理の必要性を唱えた。二つめは日本人の現在の死生感の分析であり,とくに世代論を重視して,時代論を背景におきながら,日本人のあいだには現在,世代ごとに異なる三つの常識(生と死の感じ方)が混在していることを浮き彫りにし,それを考慮することなしにはコンセンサスを論じることはできない点を明らかにした。三つめは昭和思想論である。昭和という時代を近代化、グローバル化のうちに位置づけつつ,世界思想史の視野のなかで,後期西田哲学から三木清と戸坂潤につながる思考の流れを,グローバルな世界に通じる<ものの思考>として特徴づけた。それは同時に,日本文化の底流と人類的原形とのコモンセンス的な結びつきを示すものでもある。この点を中国,アメリカ,スウエーデンに赴き,当地の学者たちと議論するなかで確認し,<虫の視点>という形で具体化してきた。以上,計画当初の予想を上回る成果を挙げることができた。なお,上記に関連する論文はすべてほぼ完成しており,別の編者による二つの論文集のそれぞれ一編として20年度内に公刊される予定である。
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