知の基礎づけという問題について、今年度はプラトン、アリストテレスなどの哲学者の考え方と、古代ギリシアの数学の関係について考察を深めた。とくに注目したのは、 1、プラトンと当時の著名なピュタゴラス派数学者アルキュタスの関係、 2、アリストテレス『分析論後書』に認められる演繹的方法論と、ユークリッド『原論』が記している「定義」、「公準(要請)」、「公理(共通概念)」から出発する演繹体系の関係、 3、プラトンの仮設法と、パッボスが記録している「アナリュシス(分析・解析)」、「シュンテシス(総合)」の方法論の関係である。 1については、立方体の倍積問題、および哲学と数学の立場の違い、2については、知の基礎づけにおいて感覚的補助手段の果す役割を考察の中心に据えた。ユークリッド幾何学においては、感覚的補助手段とは「図形」のことである。非ユークリッド幾何学との関係でしばしば問題とされる第5公準も、この感覚的補助手段という観点から位置づけられるべきではないかと考えている。 また今年度は、セクストス・エンペイリコス『学者たちへの論駁2、論理学者たち人の論駁』の翻訳を完成させ、平成18年8月に京都大学学術出版会より発行することもできた。「徴証」、「証明」などの論理学的な諸問題を論じる第8巻が、本年度の中心的な翻訳箇所であったがく翻訳、訳註、および巻末の補註において示されたストア派論理学の緻密な体系は、今後のわが国のヘレニズム哲学研究の貴重な資料となることが期待される。
|