今年度の研究は、まず、ライプニッツのアカデミー版全集に収められた遺稿での因果性に関する定義の考察を中心に行った。その成果の一部は、昨年3月に慶應義塾大学のCOEプログラムに関連する「第1回ライプニッツ研究会」で登表した後に、ライプニッツがスピノザの『エチカ』に関して遺したメモの考察を加え、そこに比重をおく形で、第4回スペイン国際ライプニッツ学会で"Leibniz on Causation: From his definition of cause as 'coinferens'"と題して2007年11月に口頭登表した。この論文は2008年に論文集として6月に公刊される予定であるが、発表に際しては多くの質問が寄せられた。 また、因果性について、特に自然法則と個体的な出来事の「偶然性」をめぐる考察の成果を「法則の偶然性と出来事の偶然性-因果性に関するライプニッツの定義から-」と題して論文発表している。ライプニッツが可能世界論の観点からこの世界における、自然法則の偶然性を述べただけなく、個体的出来事の偶然性も考察し、きわめて現代的な洞察をもっていたこと、それが重要な体系的意義をもつことを示した。 さらに依頼に応じて執筆した論文「ライプニッツの「心の哲学」小論-スピノザ=ダマシオのテーゼ「人間精神は人間身体の観念である」から-」では、スピノザの「観念」に関するテーゼをライプニッツがどう受容し、評価したかを示し、ライプニッツの「感情」をめぐる議論の意義を示した。 なお、これまでの研究成果を盛り込む形で、『哲学の歴史』第5巻(責任編集、小林道夫)では「ライプニッツ」の箇所の執筆を行ったことを申し添えておきたい。
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