今年度の研究は主に三つある。(1)ライプニッツのスピノザに関するノートから見た両者の「個体」概念の比較考察。(2)ライプニッツの「合理性」概念に関する、最近のダスカルとシェッパースとの論争と研究をふまえた考察。特に、確率概念に関する理解に注目した。(3)デヴィット・ルイスの可能世界論と因果慨念の分析を念頭に、あらためてライプニッツの因果概念の分析の現代的意義について考察した。これまで3年間の研究も含め、ライプニッツの合理性概念の中に含まれる、論理学的-形而上学的構成要素と経験的-自然的要素との関連にかなり接近できたと考えている。 これらの成果の一部は、2008年3月の慶應義塾大学のCOEプログラムに関連する「第2回ライプニッツ研究会」で発表した後に書きあらためた「二つの個体概念--ライプニッツとスピノザ--」、7月の哲学若手研究者フォーラムのシンポジウム(上野修、山内史朗氏との)「スピノザとライプニッツ」での講演に手を加えた「ライプニッツ的『合理性』をめぐる論争から」として公刊ないしその予定である。また、2009年3月の「第3回ライプニッツ研究会」では、(飯田隆、稲岡大志氏と)「ライプニッツと現代」に関するシンポジウムを行い、「ライプニッツの原因概念の現代的意義-D.ルイスの分析を手がかりに」と題して発表したが、これについても改稿し、雑誌に投稿する予定である。 その他、『ライプニッツを学ぶ人のために』では「普遍記号学」の箇所の執筆を担当した。なお、研究者は、環境リスク論関連の研究も行っているが、ライプニッツ的合理性の現代的意義を考える上で、確率や不確実性の問題を踏まえ、リスクに対処する意思決定の観点から、ライプニッツの一連の仕事を見直すことの重要性も一連の研究を通して、認識したことを申し添えておきたい。
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