東方・ギリシア教父の伝統の集大成者なる証聖者マクシモスについて、今年度は主著『難問集(アンビグア)』、『神学と受肉の摂理とについて』、そして『神秘への参入(ミュスタゴーギア)』などを主たる素材として基本的な読解・探究を行った。 マクシモスにおいて特徴的なのは、有限な自然・本性が無限なる神性(=存在そのもの)に対して開かれた動的な構造のもとにあり、そこに人間的自由が大きく介在しているということである。人間本性が自由のよき働きを介して単に「在ること」から「善く在ること」(アレテー)へと形成されるところに、いわば「存在の度合」の高まりを見ていた。しかし、そうしたアレテーの成立とはわれわれにとって必然の道ではなく、その都度、悪や罪といった頽落の可能性に晒されている。それゆえ、ここに自由・意志の働きは、「存在」(=神)へのより大なる(=より善き)関与か、「非存在への頽落」かを左右するものとして見出されてくる。マクシモスはさらに、あらゆる有限な自然・本性の紐帯として人間を捉えている。人間のうちには無生物、生物、植物、動物などのあらゆる要素が浸透しており、それらは人間のロゴス的な善きわざを通して、改めてロゴス化され、高次の存在秩序へと与らしめられる。そうした高次の存在秩序の成立の中心にあるのは人と人とのよき交わりや愛であり、そのわざを介して、われわれは万物の全一的な交わりのかたちたるエクレシアの成立へと開かれているのである。
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