本年度は、実証的研究においては、昨年度おこなった医師および看護師の「自己決定」認識に関するアンケート調査(医療従事者320名に送付し186名から回答を得たもの及び参考のため医療関係学生とその他の学生を対象におこなったもの)の整理と分析をおこない、理論的研究については、自己決定重視原則改訂のための自由の理念(「私-たち」の自由)を提起し、両者の主旨をまとめた冊子体の報告書を作成した。 実証的研究におけるアンケート調査では、医師や看護師には自分なりの判断や選択が必要とされるという認識が医師や看護師に広く共有されていることがあきらかになった。また、田中寛二琉球大学法文学部准教授の協力により統計的な分析を試みた結果、「医師は医療にかかわる選択や決定において医師以外のスタッフの医療や疾病に関する考えを考慮していない」ということを医師は看護師や学生よりも強く認識していることや、「看護師は患者の幸福を考慮するものである」ということを看護師や医療関係学生は医師やその他の学生よりも強く認識していることなどが示唆された。このような調査結果は、医療の現場においても、あるいは専門職においても、自己決定の現状は、(他者をしりぞける)「「私」の自己決定」と(他者をとりこむ)「「私たち」の自己決定」の両者が錯綜したものだということを示しており、「自己決定」の系譜と現状がそのようなものだという(思想史や連携研究者との議論を通して導き出された)本研究の理論的な考察の結論とも一致している。 理論的研究では、G.H.ミードの自我論や「共鳴」(小松美彦)という概念を手がかりに、自己決定のこうした現状の改編は、私たち人間が「私」でも「私たち」でもあるという社会自我であることによって可能となるということを明らかにし、自己決定の前提となるそのような私たちのありかたを、「私-たち」の自由という理念として提起した。
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