研究代表者宮原は、今年度はメタファに関する具体的事例の研究の基礎的作業として、認知言語学と現象学の統合理論を構築するためにラネカーのいくつかの根本概念をとりあげ、イメージ・スキーマ理論をフッサールの現象学の立場からの志向性分析で以って補完する試みを行った。具体的には所有表現やメトニミー的表現に使用されている(1)reference-point構造、前置詞構文の分析に効力を発揮する(2)trajector-landmark構造、移動動詞の文の意味内容が動詞表現とその移動動詞の表現が(3)temporal processの分析に焦点を当てて分析した。まず、(1)のイメージ・スキーマを使用しての認知言語学的分析は、複数対象が成立する現象野においてそれぞれの対象に向かう複数の志向性間の動機付け連関の問題として処理できることを示した。志向性が向けられているそれぞれの対象はそれぞれの度合いでprofileされていると言える。Salienceの違いともいえるが、それぞれ特に目立つもの、既に見知っていて何らかの既知性において把握されているものがある。そのような対象がreference-pointとなり、未知のものでそれほど際だちが少ない対象であって、発話者が思うにそこへのaccessがなかなか難しい対象に言及する場合、このreference-point構造を活用する。(2)trajector-landmark構造とは、例えばaboveとbelowなどの前置詞構文が、同じひとつの事態に関して下方に位置する対象がすでに見知られた対象がlandmarkとなり、上方に位置する対象がtrajectorとなってabove構文が成立し、また同じ事態を逆のtrajector-landmark関係が成立するとbelow構文が成立する。この現象は、現実に現れた一つの事態内でのsalience状態の過不足関係と関連すると考えられる。(3)のtemporal processの分析では、結局フッサールが『内的時間意識の現象学』で提示した時間意識のダイアグラムがまったく偶然的ではあろうが、一致しているのである。研究分担者は、「間投詞」を認知語用論的に捉えなおす試みをおこない、その成果を認知言語学会で発表した。
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