研究概要 |
本年度は、正義と所有権の起源に関するヒュームの理論を取り上げ、それが近代自然法学の伝統とどう関連しているかを4つの観点から解明した。(1)ヒュームからハチソンに宛てた1739年9月17日付けの手紙を出発点として、グロチウスとプーフェンドルフに対するヒュームのエピクロス主義的な批判の内容を解明した。(2)ヒュームのconvention概念を明らかにし、それがホッブズのcovenantやグロチウスやプーフェンドルフのpactumを変容させ、意志の一致を利益感覚の一致としてとらえ直したものであることを示した。(3)正義の道徳的是認についてのヒュームの説明を丹念に読み解くことによって、ヒュームにおける道徳理論と自然法思想の接点を確認した。(4)ヒュームの合意型所有権論をロック、ハチソン、バルベイラック、カーマイケルらの主体的所有権論と比較し、ヒュームが近代自然法学における主体的権利論の伝統とどう向き合うかを考察した。以上のうち、(4)の作業はまだ準備段階であるが、他の課題については十分な研究をおこなうことができた。 (1)と(2)の前提をなすヒュームの正義概念は、拙稿「ヒュームの正義概念と近代自然法学の伝統」、学習院大学人文科学研究所編『人文』第4号(2005年)で考察した。(これが実際に刊行されたのは2006年である。)(4)と関連する研究成果としては、Kiyoshi Shimokawa, 'Locke's Concept of Property', Peter Anstey (ed.), John Locke : Critical Assessments, series II (London : Routledge, 2006)がある。さらに、(1)と(2)の成果は、2007年11月に同志社大学で開催される日本法哲学会のシンポジウムで発表する予定である。
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