本研究の初年度の課題は、数学的構成主義のいくつかの立場についてサーベイを行うとともに、その背景にまで遡ってそれらの立場の哲学的な源泉を探ることであった。この点では、本年度は充分な前進を見ることができた。具体的には、(1)科学基礎論学会18年度秋の研究会において、「直観主義の哲学」というタイトルのもとでシンポジウムを組織し、提題者として「ブラウワー再考」という発表を行った。この中で主として論じられたのは、ブラウワーの哲学をひとつの数学の哲学として理解するにはどうすればよいかということであったが、それを論ずる過程において、ヴィトゲンシュタインの論考期における算術理論およびフレーゲの論理学観との比較を行い、ブラウワーを含めた三者の間に一定の共通基盤があることを示すことができた。また、ブラウワーの「構成としての存在」という考え方の背景が、カント以降のドイツロマン主義にまで遡ることを検証した。(2)ゲーデルにおいて直観主義がどのように理解されていたか、また、ゲーデルの一連の業績に対するブラウワーの影響がどのようなものであったのか、についての検討を行い、ゲーデル自身は決して直観主義者ではなかったものの、直観主義数学を形式主義に対する批判的視点を用意するものと位置づけ、そのために数学として洗練させる作業にゲーデルが従事していたことを明らかにした。(3)さらに、意味論的な直観主義の背景と考えられるフレーゲの哲学について一般的な解説を書く中で、フレーゲの言語的プラトニズムが大方の予想よりも構成的であり、そうしたフレーゲの構想自身が一つの構成的な立場と位置づけられることを明らかにしようと試みた。(4)また、そうしたフレーゲ理論と証明論的意味論という構成主義の一種との関わりを解明する上で、鍵となる「文脈原理」および「意義」概念の分析を、主としてダメットの諸説とフレーゲの学説をいかに接続するかという観点から行った。実際には、これらの研究のいくつかは、外部からの要請に応じる必要からなされたが、それらの研究を本研究の中心課題に結びつける形で行うことができた点では、充分な成果があったと考えられる。
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