研究概要 |
本研究は、J・J・ギブソンの生態学的心理学に包含される認識論・存在論を哲学的に敷街し、生態学的立場の哲学の確立を目指すものである。(1)身体環境存在論、(2)社会環境論、(3)道徳・倫理分野へのエコロジカル・アプローチの応用を主な課題とする。申請書通り、平成19年は初年度の研究を発展させ、とくに(3)の道徳理論の構築を中心にして業績を重ねた。結果としては、予定以上の活動を行なうことができた。 (1)身体-環境存在論については、国際理論心理学会における発表、日本英文学会関東支部での発表コメント、「身体化、状況化、イナクティブ、拡張化した心」会議において、生態学的な心の哲学から提題を行った。前野『脳の中になぜ「私」は見つからないのか?』、及び、中由・坂上『哲学から脳科学への問いかけ』に収録された対談においても生態学的リアリズムの立場から発言を行った。身体=パーソナリティ論の単著草稿を仕上げてすでに出版社に提出し、H.20年度に出版できる段階までに進めている。 (2)社会環境論については、蘭・河蟹編『組織不正の心理学』の序章,1章,5章,6章、及び、共著雑誌論文「大学生を対象とした組織倫理教育の効果(その2)」において、組織環境における個人行動の変容を生態学的視点とオートポイエシス理論的視点から分析した。 (3)道徳・倫理分野へのエコロジカル・アプローチの応用については、まず単著『善悪は実在するか:アフォーダンスの倫理学』を出版した。これらの研究では、ギブソンのアフォーダンス概念を手渉かりに、善悪が主観的な観念としてではなく、価値として環境中の実在していることを主張した。この論点は、(2)の社会環境論とも密接に結びついている。中山・坂上『哲学から脳科学への問いかけ』では、脳科学の倫理的問題点についての議論が収録されている。
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