本研究は、J・J・ギブソンの生態学的心理学に包含される認識論・存在論を哲学的に敷術し、生態学的(エコロジカルな)立場の哲学の確立を目指すものである。従来は知覚論・認識論に限定されていた生態学的リアリズムを、(1)生態学的心理学と身体-環境の存在論、(2)社会環境論・科学技術環境論、(3)道徳実在論と環境倫理学として展開した。本年度の成果は、4冊の著書、2本の雑誌論文、8回の学会発表(内、国際学会6回)として公表した。編著『環境のオントロジー』は、(1)の研究に相当し、生態学的心理学と存在論の融合を試みた本科研費研究の最大の成果である。本研究がひとつの学際的な学問分野として成立可能であること示せた。単著『暴走する脳科学』は(2)に関わり、脳科学のあり方を生態学的立場から批判的に検討したものである。パリ第七大学での国際フォーラム、ソウル国立大学での公演も、同様に、脳神経倫理という新しい応用倫理の分野に生態学的視点を導入することを試みた。『岩波講座哲学』所収「脳から身体・環境へ」は、(1)の「心の哲学」分野の研究に相当する。同様の趣旨の研究を、フランス、スルジー・ラ・サルでの国際フォーラム、東京大学グローバルCOEでの国際ワークショップにおいて発表した。岩波『思想』論文、国際メルロ=ポンティ・サークルと韓国現象学会で発表では、いずれも、メルロ=ポンティと生態学的心理学との関係性について論じた。『思想』論文は(3)の環境倫理問題に、国際メルロ=ポンティ・サークル、韓国現象学会での発表は、(3)の道徳実在論について言及した。共訳『質的心理学研究法入門』は、心理学の新しい方法論としての質的研究を網羅的に紹介したもので、生態学的立場に関係する方法がある。 以上の成果は、当初の研究目標にかんがみて質量ともに十二分なものであり、本研究は非常に大きな成功を収めたと判断する。
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