2006年度は大きく二つの課題に取り組んだ。一つは、ヒュームの『人間的自然論』(1739-40)の道徳哲学の中心的主題である「シンパシー」及び「正義」の理論を彼の認識論との関連において考察したことである。ヒュームは『人間的自然論』に展開される道徳論の中心概念である「シンパシー」の意義については注釈者の間で多様な解釈がみられる。私はヒュームの「シンパシー」概念が彼の認識論において論じられている「一般概念」と類比的な位置づけを持つことを指摘した。さらに私は従来「自然的徳」と「人為的徳」との断絶が強調されていたヒュームの正義論が自然的徳の原理である「シンパシー」論と連続性を持つことを論じ、それらが「一般的観点」の概念によって統一的に把握できることを論じた。私はそれによって『人間的自然論』の知性論、情念論、道徳論の統一性を主張した。「シンパシー論」については日本哲学会第65回大会(2006年5月21日、東北大学)の一般研究発表において発表し、また「正義論」は英文原稿で『敬和学園大学研究紀要』第16号に掲載された。 二つ目の課題はヒューム『人間的自然論』における空間・時間論の道徳哲学的意義の解明である。従来ヒュームの「空間時間論」は『人間的自然論』全体の構成においてどのような位置づけを持つのかが不明とされ、議論の対象とされないことも多かったが、私は「空間時間論」が「一般観念論」と「外的物体論」をつなぐ不可欠の理論であり、その本質は自然的および道徳的世界の秩序の形成理論であることを論じた。この解釈の骨子は日本イギリス哲学会第31回研究大会(2007年3月28日、同志社大学)において発表した。
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