本研究の目的は、西洋中世哲学と現代哲学との対話を促進し、現代哲学の視点から中世哲学の新たな解釈を試みると同時に、逆に現代哲学の課題に対して中世哲学のアイデアを提示することによって、その解決に向けた現代の議論に貢献することである。現代の言語学や言語分析哲学によって自然言語における記号と意味との関係が解明され尽くしたわけではない。中世における、「様態理論」、「代示理論」、「普遍論争」、「存在のアナロギア理論」、「存在の一義性理論」には、この世界における人間の有限な言語と永遠性(神)との何らかの意味表示関係を模索する宇宙論的意味論という、現代には知られていない重要な意味論が含まれている。とくに、トマス・アクィナスやガンのヘンリクスの《esse》という語は、どのように永遠性を意味表示することができるか(あるいは、できないか)ということを意味論ないし語用論の観点から、とくに「存在は述語ではない」に代表される現代分析哲学の「存在」解釈という問題との関連の中で検討する。本研究は、中世哲学における意味論と語用論の諸相を浮かび上がらせ、それらの諸相を現代の分析哲学に理解可能な文体で提示することを意図する。 以上の諸点に関して、文献の収集、収集文献の要点のデータベース化を行い、パリ大学にてC.Steel教授、P.Porro博士やM.Carvalho博士らとの研究討議を行い、国内の学会・研究会等に参加してディスカッションを行った。また、現代の分析哲学の伝統における論理的意味論から見た「存在は述語か?」に関する論文を執筆した
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