1.神・仏概念の研究 『古事記』および『日本書紀』(仏教伝来説話)を読み解き、神・仏概念についての解釈および整理を行った。先行研究における神・仏概念の定義の変遷をも辿った。さらに、仏概念に関して、法華経の語る垂迹概念と密教における法身概念とを軸に考察を行ったが、密教については基本文献の読解中である。いずれの研究においても、神と仏とが交錯する原理的な地点の解明に努め、「もの神」と「たま神」というキーワードのもとに考察を深めている。 景観(聖地)の構造からも、神と仏の概念についての考察を進めた。神に関わる景観に仏法が関係するとき、神は仏の垂迹であるという理論をもとに、神の聖地性が保存される。と同時に、その場所には仏法的な地名が付けられたり、後の垂迹画を生んだりして、場所を指示する言語表現(地名)や視覚表現(絵画)において神仏習合が果たされるのである。 2.神仏関係思想の原理的解明(和辻哲郎および山王神道) 和辻哲郎の倫理学大系における隠れた神仏関係理論について考察し、『理想』に発表した。和辻が抱えた特殊(日本)と普遍との関係という問題は、仏教が移入された古代から存在し続けている問題である。古代の普遍概念は仏法であり、神仏関係思想は特殊と普遍とを如何につなげるかという思索を示している。山王神道もまたその一つであり、特殊と普遍との関係という観点から山王神道における神・仏の概念及び神仏関係の原理を概括的にではあるが辿った。主に円仁・円珍・良源までである。山王神道の神仏関係理論と和辻の神仏関係理論との違いは多いが、原理的な点を言えば、山王神道には垂迹に関する物語(時間性)と比叡山という景観(空間性)が関係しているという点である。今後、「垂迹」概念における時間性と空間性の原理を解明したい。『耀天記』中の「(山王事」については読解を継続中である。
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