仏と仏弟子たちの前世物語を記した譬喩経類(本生経類)は、仏教が中国社会に広まっていく上で大きな役割を果たした。長く繰り返される輪廻転生と因果応報という、中国にはもともと存在しなかった観念を物語によってわかりやすく説いた前世物語は、小説や絵画などの形式をも借りながら、人々の間に浸透した。それはさらに、道教にも影響を与え、六朝時代に作られた霊宝経の中には、道教の重要な神々の前世物語が書かれている。 科学研究費の交付を受けた2年間のあいだに、漢訳仏典譬喩経類のひとつ『六度集経』について主に研究を行った。中国思想・中国仏教・インド仏教・仏教美術史・日本仏教の諸分野の研究者から成る『六度集経』研究会を組織し、毎月1回、会合を開き、『六度集経』を丁寧に読み解くとともに、関連のジャータカや本生図を検討した。2年間で、『六度集経』巻1から巻3までを読み終わり、その日本語訳は、研究成果報告書に収録した。 また、六朝道教経典に見える神々の前世物語については、台北で開催された2006道文化国際学術研討会(2006年5月)と、西安で開催された中国首届道教美術史国際研討会(2007年5月)で口頭発表をし、海外の研究者と意見交換を行った。
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