本年度は『論語義疏』抄本35種のいわゆる親子関係、兄弟関係を明らかにするため、諸抄本の問の文字の異同を調査するとともに、根本刊本・武内校本がどのくらい文字を改めているかをも考究した。その一先ずの結果を10月8日、日本中国学会第58回大会において「『論語義疏』をめぐる諸問題」と題して発表した。その内容を述べれば、文明本・清熙園本・足利本・京大本・(重文本・東大本)は近い関係にあり、大槻本・延徳本・青淵本・上原本・(応永本・江戸本・新井本)は別のグループを形成し、宝勝院本・蓬左本はさらにまた別系統であろうと推定されること。また、根本刊本は意をもって文字を改めたり、削除したりしていること、武内校本は誤植がかなり多く見られ、定本としては不安が残ることなどを実例をあげて示した。 その後、35種のほか、さらに2種の抄本の存在が判明した。一つは萩市立萩図書館に所蔵される十巻五冊本。これは江戸後期の写本で萩明倫館第六代学頭繁澤豊城の玄孫寅之助が明治43年に寄贈したものである。もう一つは、足利学校遺跡図書館所蔵の第四巻のみの一冊本。これは明治期に足利本を模写したものである。 後者は模写本であるから除き、前者の萩図書館本を加え、合計36種の抄本で何晏集解序疏の校勘記を作成して文字の異同を調べた。実際には何晏集解序疏を欠く10種を除いた26種の抄本を用いたのであるが、比較材料として根本刊本・武内校本を加えてある。この結果、盈進斎本・国会図書本・江風本・泊園書院本が一まとまりにくくれそうであり、市島本と萩図書館本に関連性が見られることが判明した。
|