本年度の研究実績を、年度当初に提出した研究実施計画に沿って述べる。1)台湾故宮博物院所蔵本(七種)の後半三分の二の紙焼きを、台湾故宮博物院図書文献館及びフィルムを有する慶応大学附属研究所斯道文庫の許可を得て作成し、研究が終わるまで斯道文庫から貸与されている。また東洋文庫所蔵本(二種)の後半三分の二の紙焼きを作成した。2)昨年度に引き続き35種の抄本と敦煌本とを校勘に用い、武内本の補訂作業を進めているが、『論語義疏』そのものが長編であり、また校勘に用いる抄本の数が多いため、成果の公表にはな時間を要する。3)現在所在不明の抄本には、桃華斎本・有不為斎本・皎亭本があるが、いずれも、競売に附されてからの行き方がわからないままである。また新た京都の東福寺即宗院に文之玄昌の筆になる『論語義疏』巻四と巻五とがあったことが判明し、現地に赴いて調査したが、残念ながら昭和13年の展観以後の消息は知れなかった。4)35種の抄本の系統を調べる作業も2)に関連して行なっている途中である。5)文明十九年写の大槻本の訓読を忠実に復元する作業も鋭意進行中であり、平成20年度には皇侃自序、何安集解叙疏をはじめとして順次公刊する予定である。 2007年4月に中国から『儒蔵』本の『論語義疏』が出版された。これは日本に数多くある抄本を全く無視して作られたものである。そこで本年度末、後漢経学研究会の場をかりて、『儒蔵』本の持つ問題点を指摘し、その使用に当たっては十分注意すべきことを喚起した。
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