本研究の目的は、インド大乗仏教瑜伽行唯識学派の成立過程を、無著の著作を考慮しつつ、仏道修行者である大乗の菩薩と聖弟子声聞の視点から解明することである。 思想研究 1.先ず、大乗の菩薩と聖弟子聲聞との関連を明確にするために、弥勒著『大乗莊嚴経論』第1章「成立大乗品」、第9幸「菩提品」、第11幸「求法品」の精読に専念した。その結果、従来の「大乗の菩薩vs.小乗の声聞」の対立構造だけではなく、「大乗思想に従う菩薩vs.大乗思想を恐れる菩薩vs.大乗と対立する声聞」の対立構造の認めラルことが明らかになった。 2.これらの対立構造とは対照的に、無著造『顕揚聖教論』に展開される「菩薩と聖弟子聲聞」の共存構造、同じく無著造『攝大乗論』に見られる「声聞と区別される菩薩」の優劣構造の存在が確認されている。 3.無著造『大乗阿毘達磨集論』(および『大乗阿毘達磨雑集論』)における「菩薩と声聞」の構造解明は次年度に持ち越すこととなった。 4.菩薩と声聞をとりまく、弥勒論書と無著の著作との差異、及び思想史上の展開を明確にするのが次年度の課題である。 データベース研究 無著造『顕揚聖教論』第1章「攝事品」について、大正大蔵経版を底本に、高麗大蔵経版・中華大蔵経版、それに鴎陽竟無大師編蔵要版を対照し、校訂版を作成した。その校訂版に基づき同章の書き下しを、注釈とともに作成した。
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