本研究の課題は、内在的な「生」そのものを究極的な価値とする「生の宗教」の思想(運動)の系譜のあとづけと、その時代比較的研究であった。平成18年度は、まず19世紀末前後のドイツを中心とした「生の宗教」の動向の把握に務めた。その際、同時期のドイツの文化・社会におけるもっとも影響力のある対抗運動であった「生=生活改革運動」(Lebensrefbrmbewegung)における宗教性の問題を、この運動の象徴的存在であった画家・宗教運動家のフィドゥスにおいて考えた。ベルリン現代美術館所蔵の遺稿資料を現地で収集したほか、フィドゥスの運営していたコロニーの跡地調査なども行った。フィドゥスについては、その宗教的・美的ヴィジョンの問題について一論考を発表した。また時代比較的問いとしては、生活改革運動の宗教性における民族的生の超越化と通じるものとして、現代ドイツにおける新異教主義宗教運動における生=生命主義的傾向を、やはり原資料の収集と、運動体のブログの分析などを通じて分析することを試みた。 また、こうした運動とゆるい関連をもちながら、独立した生の宗教思想を展開した存在として、ゲオルク・ジンメルに注目し、ことにジンメルがより明確に生の思想を打ち出した晩年の諸著作の読解を進めた。具体的には、とりわけ遺作である『生の直観』に重点をおき、そこにうかがえるジンメルの生の思想と、また逆に生の対極をなす死の思想について解明を試みた。その成果は、日本宗教学会におけるジンメルの「不死性論」についての発表として結実した。
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