本研究の課題は、内在的な「生」そのものを究極的な価値とする「生の宗教」の思想(運動)の系譜のあとづけと、その時代比較的研究であった。平成20年度は、平成19年度に引き続き19世紀末前後のドイツを中心とした「生の宗教」の一般動向の把握に努めるとともに、とりわけ民族的生を称揚する民族主義宗教運動における宗教性の問題を、この運動の諸傾向を集約する象徴的存在であった画家・宗教運動家のルードヴィヒ・ファーレンクロークを中心に据えつつ考えた。またニュルンベルクのドイツ・ゲルマン博物館文書部において、ファーレンクロークの遺稿資料および生の宗教の関連資料を収集した。時代比較的問いとしては、平成19年度に引き続き、現代ドイツにおける新異教主義宗教運動、ことにファーレンクロークの創設になる「ゲルマン的信仰共同体」における生=生命主義的傾向を、原資料の収集と、運動体のプログや文書資料の分析などを通じて解明することを試みた。以上の研究成果は、平成20年9月の日本宗教学会で発表したほか、平成21年秋刊行の論集に「宗教史の構築と『解釈的同化』--『ゲルマン的信仰共同体』の歴史理解」と題する論文として公表する予定である。さらに、研究の最終年度として、諸事例の検討を通じて確認された「生の宗教」の一般性格および時代比較的特徴などについて、理論的検討を加えた。これについては、平成22年春刊行予定の論文集への寄稿において、単独の研究論文のかたちで成果を公にする予定である。
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