本年度の研究実績は、以下の三点に渡るものである。 (1)現代フランスの証言論への赦し論からのアプローチ この問題に関する考察は、「困難な赦し」(リクール)と「不可能な赦し」(デリダ)をキーワードとしてリクールとデリダがその最晩年に行った濃密な論争を下敷きにしたものである。この問題に関して、仏語論文と日本語論文を各一編出版した。この作業を通して、本研究の骨子となる証言論の「地平」を描き出すことができたと考えている。 (2)「ハイデガー以降の生の哲学」という観点からの証言論の肉付け 共にハイデガーから影響を受けつつその根底的な批判を通して自らの哲学を練り上げたヨナスとアンリについて、両者がそれぞれの文脈で用いる「生の自己証言」という概念に着目し、ハイデガー的な「死への存在」の手前で構想される「生の哲学」の意義と射程を問う考察を展開した。このテーマで論文を一編執筆したが、このような比較研究は、我が国の内外を問わずほとんど先例のない試みであると思われる。 (3)「死者の(非)現象学」への展開 田辺元が最晩年に構想した「死の哲学」、とりわけ「死者と生者の実存協同」の概念の内に、ハイデガーやレヴィナスと突き合わせつつ「死者の(非)現象学」へと展開する思索を見てとろうとする考察を試みた。このテーマで、2006年5月にイタリアのマチェラータ大学でフランス語の講演を行った。その原稿の改訂版は、2007年末に刊行される予定である。
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