本年度の研究実績は、(1)現代フランス哲学への証言論的アプローチの総仕上げ、(2)「生死」と「善悪」という二つの根本問題からの(1)の宗教哲学的捉え直し、(3)「死者の(非)現象学」という観点からのハイデガー哲学の批判的受け取り直し、の三点にまとめられる。(1)については、ハイデガー、マルセル、ナベール、レヴィナス、リクール、デリダ、アンリなど、本研究が主な対象としてきた哲学者たちの証し・証言概念を相互に連関づけて、共通の構図を描き出すことができた。そして、その構図を(2)で挙げた二つの根本問題との関係の中に置くことによって、そこに現代における「宗教哲学への思索」の出発点が見出せることを明らかにした。これについては、2007年11月の京都哲学会での公開講演「宗教哲学へ-証言という問題系から」で発表し、その考察の前半部を『哲學研究』585号に論文として発表した(後半部はその次の号に掲載予定)。(3)については、ベルクソン、田辺元、リクールを手掛かりに考察を展開した。とくに田辺元のベルクソン読解を通してこの問題に切り込んだベルクソン国際学会での発表は、海外の研究者たちの関心を引き、充実した意見交換を行うことができた。
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