本年度は、当該研究の最終年度にふさわしく、証言論を軸として現代フランスの諸思想を連関づけるという企てがほぼ完成したと同時に、それを発想の原点として現代における宗教哲学の有りようを構想するという作業も、その全体像が確定した。前者については、とくにその中でのリクールの位置づけについて、国際学会や研究代表者の企画したシンポジウムでの発表や意見交換を通して、最終的な詰めの作業を行うことができた。また、後者については、その総論となるような論文の執筆を通して、死の問いと悪の問いをそのための補助線とすることの意味を明確にすることができた。これらの成果は、現代フランス哲学研究としても、また宗教哲学の思索としても類例の少ない独創的なものであると言える。さらに、昨年来本研究から派生してきた発想として、現代フランス哲学の証言概念と京都学派の哲学の自覚概念を突き合わせて考察するという作業にも引き続きとり組み、双方を1930年代になされたヘーゲル弁証法の独自の摂取・活用と連関づけて考察することで、上述の宗教哲学の構想をさらに重層的なものとするための手がかりを得ることができた。この点は今後の研究でさらに展開していきたい。
|