本研究は「空間の表象」の観点から宗教民俗の再構築を目指す試みである。宗教学・日本民俗学が蓄積してきた地域研究を、イメージと現実の間を揺れ動く「空間の表象」を通して、1990年代半ば以降に展開してきた空間の消費や空間の生産の観点を取り込み、人々の実践と土地との関わりを通して構築される、重層的で複合的な現代的な空間認識の変化を明らかにすることを試みた。具体的には「巡礼」「祝祭」「交換」「記憶」「芸能」などを、「空間の表象」の主題のもとに統一的に把握して宗教民俗を研究し、「空間の宗教性」を考察すると共に、動態的な地域研究を行った。本研究を遂行する背景として、1980年代後半からの癒しやヒーリング・ブームに伴う霊性への関心の高まりや、環境問題への取り組みによる自然の生命観を通じて空間の意味を考え直すという流れがあり、現代の時代状況を考慮して考察を行った。フィールドワークの拠点としては、東日本では山形県遊佐町、西日本では福岡県篠栗町を設定し、前者では鳥海山の周辺の祭祀や民俗芸能を、後者では新四国霊場の巡礼や寺社の祭祀を主題として研究した。比較の観点から、西日本では岩国市、東日本では北上市でも資料の収集を行った。あわせて、研究協力者として7名により、共同研究によって考察の深化を試みた。対象地域は研究協力者の継続調査地である四国霊場、福岡県篠栗町、石川県気多・気比、長崎県長崎市出島、静岡県南伊豆、静岡県森町、沖縄県那覇市で、「巡礼」「祝祭」「交換」「記憶」「芸能」などの主題に対応させて研究を行った。
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