宗教間対話において広く用いられてきた類型に、排他主義、包括主義、多元主義がある。宗教多元主義の立場からは、しばしば、排他主義や包括主義は克服されるべき前時代的なモデルとして批判されてきた。このような宗教多元主義モデルが前提としている進歩史的な価値観を批判すると共に、その問題は現実の宗教界や政治の世界などにおいても反映されていることを、西洋および日本における事例を通じて研究してきた。その上で、排他主義や包括主義に分類される宗教や運動の中にも評価すべき要素があること、また西洋の神学サークルの中で議論されてきた多元主義モデルが、非西洋世界において、どのような有効性を持つのかを、イスラームや日本宗教の視点を交えて批判的に考察してきた。 こうした課題の事例調査のため、平成19年度2〜3月、イランに出張し、イランの宗教政策と外交政策の関係や、宗教指導者たちの欧米観の聞き取り調査をした。宗教間対話研究所(テヘラン)を訪ね、特に中東における宗教間対話の現状や課題を確認することができた。また、政府直属の戦略研究所(テヘラン)では、"Conflicts between religious and modern values inpost-Meiji Japan: A comparative study for the concepts of democracy"と題して研究発表を行い、外交専門家たちと意見交換する機会に恵まれた。 3月には、中国に出張し、急速に変わりつつある中国の宗教研究の現状について、大学や国家宗教事務局において聞き取り調査をすると共に、上海師範大学のInternational Scholars'Forum で「現代社会における宗教研究の重要性」と題する講演を行い、意見交換の機会をもった。 欧米から、しばしば「信教の自由」に関して問題視されている、イランや中国などの国と、どのような関わりを持つべきかを今後考えていくきっかけを多く得ることができた。
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