1、今年度は、ロシアのMoscow School of Social & Economic Sciences(所長T.Schanin)の研究所Intercenterに20日間滞在して、ここを拠点にして本テーマにかんする文献調査研究を行い、また当地の社会学理論の専門家との有意義な意見交換を行った。現在ロシアではヴェーバー研究に触発され、ロシア正教の経済倫理というテーマで、若手の研究者が意欲的な社会学的調査に取り組んでいること、さらに、思想史の分野では、モスクワ大学に経済社会学の講座が設立され、そこで20世紀初頭の経済学と哲学をめぐる論争の中でヴェーバー理論との関連でロシア宗教思想(正教)の経済倫理に関する新たな研究が始まっていることを知ることができた。 2、今年度の研究で得られたもうひとつの成果として、1とは逆の側面、すなわちドイツの経済学界では、従来から見られたようにドイツ経済学理論のロシアへの流入という側面の研究のみならず、逆にロシア経済学のドイツへの流入という側面に焦点を当てた研究が出始めたことを確認することができた。ロシア革命後にドイツへ亡命した学者はもとより、革命前の帝政ロシアの時代にさえロシア経済学者の著作がドイツの学界に紹介され大きな影響を与えたという事実の発掘である。これは経済学思想のレベルでの相互のtransferの問題として、両国の研究者の共同プロジェクトで行われている。これまでも文学研究ではたとえばトルストイ、ドストエフスキーのドイツ受容に関してはよく知られてはいたが、これが経済学の分野にも現れたことを示すもので、今後はさらに法学や哲学の分野でもこうした独露の諸思想の相互の交流の歴史の解明が大いに進捗することが予想される。本研究はそうした国際的共同研究に何がしかの貢献ができると確信している。 3、次年度はセルゲイ・ブルガーコフの思想的展開とヴェーバーのインパクトというテーマで、個別的に具体的な研究を深めたい。
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