研究課題
本年度は、とくに20世紀初頭の帝政ロシア近代化の時期と世紀末の社会主義崩壊=再資本主義化の二つの時期のウェーバー研究に焦点を据えた。歴史的時期は大きく隔たるが、両時代のロシアの知識人の中に、それぞれロシアの社会政治改革の志向に一つの共通の志向がみられること、ロシア独自の「市民社会化」の模索の志向があったことを探り出し、それが「ウェーバー」に接近する一つの動機となっていたことを解明した。両時代におけるロシアの市民社会的改革への志向が、一方で宗教倫理における経済的エートスに着目したウェーバー宗教社会学へ眼を開かせると同時に、他方では、それが、ロシアの歴史的伝統的な精神的土壌の中での改革である限り、依拠すべき遺産としてのロシア正教に伝統的な宗教倫理の再解釈を志向するナショナルな心情(ロシア宗教ルネサンス)と結びついたのである。具体的には20世紀初頭のセルゲイ・ブルガーコフの(合法)マルクス主義から宗教(正教)哲学への思想転換に際して、彼自身による『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』との遭遇が大きな役割を果たしたこと、またこの世紀初頭のウェーバー受容を、再び20世紀末に現代ロシアの社会学理論家ユーリー・ダヴィードフが「再発見」し、併せて西欧学界の現代ウェーバー研究と格闘する姿を描いている。前年度にモスクワに出張した際、当地で意見交換したロシアの社会学者から、ロシアの社会学雑誌に寄稿するよう要請を受け、その求めに応じて発表したのが、下記のロシア語論文であり、本年度の研究の主要な成果の一つである。これによって、現代ロシアのウェーバー研究者や宗教思想史家のみならず、一般ロシア人読者にとっても、はるか遠く離れた日本の一地方大学に在籍する一ロシア思想史研究者が存在すること、そして日本のウェーバー研究者による、独自の「マックス・ウェーバーとロシア」に関する研究として、少なからざる関心を引くものになったと確信するものである。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
《Пути России: преемственноств и прерывистоств обЩественного развития》 Москва, Москвовская высшая социальных и энономических наук XIV
ページ: 51-67