本年度は、チャールズ・ダーウィンやエルンスト・ヘッケルの進化論思想の影響下において、形態学的思考が依拠したイメージ論のパラダイムや、そこで反復される言説のトポスを、同時代以降の造形芸術の動向(アール・ヌーヴォーなど)やイメージをめぐる文化科学的研究、とりわけアロイス・リーグルの美術史学との関係のなかで解明した。その過程で、ヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマンにおいてすでに、美術史と自然史=博物誌とが「様式」の概念を通じて接触しており、生物の「種」が「様式」に対応させられていたこと、それゆえ、ダーウィンの『種の起源』が「様式」の生成変化をめぐるモデルになりうるコンテクストがそこに存在していたことが見いだされた。さらに博物誌的な「様式」が人間の認知性向に依拠する「分類思考」に基づいていたのに対し、ジョージ・キューブラーの『時のかたち』は進化論の「系統樹思考」を美術史に導入している、といった対比が確認された。美術史と自然史の照応をめぐるこうした歴史的経緯を背景として、昆虫の擬態や眼状紋と人間の神話を対応させて分析するロジェ・カイヨワの「対角線の科学」が孕んでいた可能性を吟味し、20世紀冒頭におけるグスタフ・クリムトやパブロ・ピカソによる絵画作品のイメージに読み取れる想像力の運動を、実際にその視点から解明した。そして、こうした分析の延長線上で、現代の生命論的な言説が駆使するアナロジーに着目し、自然科学の実証的言説のレベルと比喩的表現や具象的イメージ化のレベルとをつなぐ想像力の論理を考察し、芸術作品や建築物、都市、あるいはイメージ現象一般における同種の論理との比較を行なった。
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