平成20年度においては、4月にアメリカ合衆国アトランタ市で開かれたアジア学会年次大会(The Association for Asian Studies Annual Meeting)に参加し、「日本史における君主制と政治的操作:中世から明治までの転換点」というセッションで研究発表を行なった。その発表では、明治時代に詔勅が天皇と国民の間を結びつける役割を担い、それを通して天皇と国民が「呼びかけ/呼びかけられる」関係に置かれるようになったことを論じ、詔勅の言語行為的側面を明らかにすることができた。この発表は学会で好意的に迎えられ、多くの専門家から貴重なサジェスチョンをいただくことができた。当初はこの発表を英文論文として発表する予定であったが、その後、日本語論文としてまとめることに計画を変更したため、まだ論文として公刊するには至っていない。その後、7月には国立国語研究所、韓国国語院と本研究科が共催した国際シンポジウムで日本の定住外国人に対する言語施策に関する発表を、10月には韓国の延世大学における国際学術会議において近代日本の言文一致についての発表を行なうなど、新たな研究発表に取り組んだ。さらに、2009年2月には、本年度の研究成果をもりこんだかたちで、これまで発表してきた言語思想史関連の論文を一冊の著書にまとめた。この本はすでに書評にもとりあげられ、好意的な評価が得られた。年度全体として見て、当初の計画の変更はあったが、たいへん充実した成果を挙げることができた。
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