2年間にわたり、ハンガリーの思想家ルカーチ(Lukacs Gyorgy 1885-1971)の本格的なビブリオグラフィーを作成することが私の課題だが、初年度はその国際スタンダードとなるべきものに照準を当て仕事をした。最終的には、ルカーチ研究を志す日本の若い研究者たちの導きとなるような日本語版を仕上げることが目標である。そのためには国際スタンダード版の作成は不可欠の前提をなす。ロシアとイタリアに大きな空白部分があり、単独での仕事は困難だが、幸いロシアのルカーチ研究者スティカリン氏(Александр С.Стыкалин、ロシア研究所上級研究員)とハンガリーのすぐれたイタリア思想の専門家かつルカーチ研究者であるサボー氏(Szabo Tibor、セゲド大学教授)の協力を得て進めることができた。 主な仕事内容は、必要な洋古書の購入、本の借用やコピーの取り寄せによってビブリオグラフィーの空白を埋めること、上記二氏とEメールで連絡を取りあいながら、ビブリオグラフィーの基本方針と具体的な項目を取り決め、調査や資料の調達を依頼すること、最後にブダペストに集まり、ルカーチ・アルヒーフ所長シクライ氏(Sziklai Laszlo)を交えて、ビブリオグラフィーの達成度を確認し、問題点と残された課題について議論することであった。既成のビブリオグラフィーから引き写すことをせず、すべて初出の現物に当ることを基本方針とするこの仕事は、シクライ氏から「前例のない徹底した仕事」と高い評価を受けた。概ね所期の目標を達成できたが、高いハードルを設定したため、まだまだ空白を残しているが、三氏から引き続き協力の約束を得たことは心強い。またこれまでまったく知られていなかった(つまり忘れられていた)資料を見つけ出し、これは思いがけぬ喜びだったが、ルカーチ研究の不十分さという事態を再認識させられることでもあった。
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