本年度は、研究の主要な課題であるガンディーの宗教観と基本的信条に関わる文献を収集・分析する一方、同課題に深く関連する二つの論文を執筆した。とりわけ、2006年夏にスタンフォード大学(合衆国)に客員研究員として滞在した際に、これらの作業を集中的に行った。 ガンディーの宗教観については、特に不可触民制度をヒンドゥー教から切り離し、カースト制度を維持すべきであるとした彼独自の宗教観が興味深い。つまり彼は、不可触民制の宗教的根拠を経典に求めるサナタニストらと対立して、これをヒンドゥー社会の汚点とする一方、その廃止のためにカースト制を廃止すべきとするビムラオ・アンベードカルとも相容れなかった。エレノア・ゼリオットは、ガンディーとアンベードカルが、晩年に大きく歩み寄ることを示しているが、こうした点がガンディーの「近代」批判においてもつ意味をさらに検討する必要がある。 論文「グローバル化時代におけるガンディー思想の意義」では、「近代」の矛盾を克服する鍵は、グローバルな経済発展によって貧者の「自由」を拡大しようとするセンの思想ではなく、なお、貧者の救済は富者の必要物の削減とともに行われるべきであると考えるガンディー主義に見出されることを示した(次ぺージ掲載)。なお、本年11月にインドのウダイプルで行われる国際会議「非暴力の経済学-ビジネスの倫理-」において本研究を報告する予定である。また、論文「マハートマ・ガンディーの経済思想」では、チャルカー運動がこれまで市場と機械の前に低く評価されてきたが、実は市場の外で一定の波及効果をもち、独立運動を支えるに十分な規模であった事実を踏まえ、労働集約的技術による貧者救済という運動の真意を積極的に評価しうることを示した。同論文は、『経済思想-非西欧の経済学-』(第11巻)に納められ、日本経済評論社よりまもなく出版される予定である。
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