我が国における最初の本格的神道論といえる伊勢神道論の成立時期および成立事情について、従来の通説を再検討し、独自な新説を提示するための予備作業を行った。具体的には、平安後期の院政期から中世前期(鎌倉期〜南北朝期)にかけての伊勢神宮及び伊勢神道に関する詳細な年表を作成しつつある。既に一応の年表は作成していたが、最新刊の『伊勢神宮史年表』(戎光祥社)の当該部分をパソコン入力し、さらに精密の度合いを深めようとした。これは、当該期の古記録(日記)や古文書、また神宮関係史料を網羅的に収集整理し、伊勢神道史を中心に関連する主な思想史の流れが一目で理解できるように、年表のうえに諸事例を書き並べて、推移の把握の参考に供するものである。 なお、研究成果としては、まだ公表していないが、平安後期から鎌倉期にかけて外宮祭神が皇御孫尊に変わっている証拠を複数得た。これは前期伊勢神道の成立が通説より約1世紀繰り上がる可能性を示唆するものである。この説を唱えた人物についてはまだ確証を得ていない。そして、伊勢神道説の主唱者の一人とされる度会行忠は、むしろこの外宮祭神皇御孫尊にたいして懐疑的であり、内宮相殿神などについても儀式帳によって、是正しようとしていたことを論証した。 また、京都大学付属図書館所蔵菊亭家舊蔵の両部神道書について、次年度に翻刻の予定で調査を開始した。
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