本年度はプロジェクトの第3年度にあたる。8月25日から9月2日まで回族関係文物の調査と、聞き取り調査をおこなった。済南北方の石家村清真寺を再訪し、この清真寺に保管されているアラビア語、ペルシャ語の写本の状態を調査した。写本には制作年度が記されていないので制作時代を特定できなかった。ただし今回はかつて石家村清真寺のアホンをつとめていた89歳の楊宝泉老人に済南でインタビュウーすることができたので、彼にこれらの写本にかんする来歴を聞くことが出来た。彼によるとこれらの写本は西方から持ち込まれたものであり、石家村で制作されたものではないという。文化大革命時期に村人が苦心して守ったもので、現在は村の管理下にある。済南滞在中には李興華の論文『済南伊斯蘭教研究』2008年“回族研究"2に報告されているババ墳およびババ洞を調査した。ババ洞は「静修」と呼ばれたスーフィー的瞑想修行に使用された天然の洞窟であり済南郊外の九連山の山腹にある。現在は「静修」を実践する人はいないという。ババ墳は現在済南市内の馬鞍山にあり、回族の高徳の人々の墳墓群である。共産主義革命以前には「静修」を実践する者もあったようであるが、現在はスーフィー修行の実践は行われていない。なお12月24日から30日まで広州の清真寺聖懐寺を中心に広州回族の現状を調査した。本年は2006年の済南調査のときに済南清真南大寺の経書店で入手した馬復初のアラビア語著作「al-Nasa'ih al-Islamiyyah」(伊斯蘭的忠言)に基づきイスラームの死生観についての論文を発表した。
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