本年度は、セザンヌとピサロを中心に印象派および脱印象派における共同制作の事例について文献等の資料収集を行ない、またそれと平行して、ロマン派など早い時代における芸術家間の関係性について、社会史研究の成果を参照消化しつつ考察を深めた。特に後者については、研究の過程で「共同制作」の契機を醸成する土壌としての「芸術家の孤立」状況の分析の意義を再確認することの重要性を再認識するにいたり、本研究の幅と射程という意味で新た地平を開くことができた。その成果は、ロマン派からレアリスムヘの橋渡しの段階を体現すると見られる画家、オクタヴ・タッセールについての論考として発表することになっている(「手仕事と個」『西洋美術研究』第13号、査読・受理済み、現在校正中)。 また本年度の研究を通じて、共同制作というテーマが、近代西欧における芸術家間の関係性、あるいは西欧近代社会における個と共同性のあり方という問題圈の一部をなすことも確かめられた。この点も、タッセールを取り扱った前記論文において見通しを示したが、今後さらに拡充・発展させることとする。 また現地調査においては、パリでの文献調査を通じて、同時代資料の複写を行ない、伝記的資料を中心に今後の研究の基礎を形成した。 その他、芸術家の移動を扱った論文、美術史家フオションの方法論とその背景を扱った論文において、間接的に芸術家間の関係性とその制作のあり方について論じた。
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