20年度は、前年度までの研究を受けて、芸術家問の関わりのあり方-ソシアビリテ-という視角から、共同制作の位相を考察し直すことを企てた。その際、単に影響関係の事例収集に終わるのではなく、そうした共同性をとらえる理論的なスタンスの獲得を視野に入れることを目指した。 前年に注目したタルドの社会学理論などを検討すると、模倣にはある要素の伝達や共有とともに、行動様式の伝播、感染といった側面があることが分かる。これを美術家に当てはめると、特定のモチーフや構図といった要素的な部分のやり取りとは別に、手法、様式の伝播が共同制作の局面で現れることが分かる。これまで、影響関係の研究において特に重視されていたのは前者であるが、後者については、例えばピサロと新印象主義などの例を除けば、必ずしも明確にとらえられて来たとは言い難い。それは、美術史における「様式」の把握の仕方が、いまだ直感的な用語と方法にとどまっているからであると考えられる。 そこで視点を変えて、人類学における様式の把握について研究を進めると、20世紀初頭の、特にボアズ学派のアメリカ文化人類学に重要な示唆を得られた。とりわけA.クローバーの土器研究は、様式を要素的に分解して数値に還元し、その数値を通して様式の挙動を明確、客観的にとらえている。この知見を今後さらに発展させて、芸術家間の関係性が様式の共有と新たな創造を生み出すプロセスを、新たなかたちで把握、記述することを目指したい。
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