現代の日常生活は、その大部分が電子機器媒体を通じたインタラクティヴィティ環境を前提に設計立案され、通信、交通、金融、治安、医療、娯楽等、あらゆる生活基盤産業がヴァーチュアル・リアリティ化され、それが「事実上、現実とたがわない」ものであるという使用者の実感を保証する最大の手がかりがインタラクティヴィティと呼ばれる、主体(サーヴィス受容者)と客体(サーヴィス提供者)との間の「柔軟な」相互干渉性です。しかしながらこのインタラクティヴィティ環境は、真に人間の身体/精神の時空間において深い自己省察を重ねられたうえで進行しつつある事態ではありません。それゆえ近い将来、闇雲に進行しつつあるこの地球規模のインタラクティヴィティ環境は、人間の身体/精神になんらかの治癒困難な傷痕を残し、新たな身体/精神機制を構築することになるはずです。以上のことが、もっとも象徴的かつ兆候的に読み取れる領域が、今日「電子インタラクティヴ・アート」と呼ばれる最前衛の芸術様式のひとつです。そこではデカルト的二元論によって規定されてきた近代の心身二元論がきわめて希薄化され、新たな人間の心身機制を産み出そうとしています。インタラクティヴ・アートにおける主体/客体間の相互アクションは主従関係にも前後関係にも因果関係にも還元されない、双発的アクションであり、それは古代奴隷制から近代までが、その社会制度の前提としてきた二元論的階層性を解体させるヴェクトルをもっています。 本研究は、以上の全体構想と目的にもとづき、平成19年度、以下の研究成果を上げました。 (1)電子インタラクティヴ・アートと人間心身の現象学的記述。 (2)電子インタラクティヴ・アートの帰納的分類とその作品項目データベース化。 (3)電子インタラクティヴ・アートと現実社会の進展の接点と兆候性の解明。
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