今年度は、インタラクティヴ・アートに関する形而上的概念思考の構築にあたり、インタラクティヴ・アート作品を網羅的に体感鑑賞し、帰納的方法で以下のような暫定的結論を導出した。すなわち主客相互作用による人間と物質の「柔らかい」接触と擬似コミュニケーションは、従来の動態的相互作用をともなわない、もっぱら心的作用のみに起因する芸術作品と人間との交流に比較して、身体的、動態的、物理的であるがゆえに、インタラクテヴィティの水準における精神的純化作用に鈍麻的傾向を賦与するものであるということである。これはいわば芸術作品と人間とのあいだにブラックボックスが介在するごとき作用をもたらし、真の精神純化作用(カタルシス)を両者の相互作用から引き出しにくくなったことを暗示するものである。しかしその一方で、インタラクティヴ・アート作品が鑑賞者の身体的、動態的反応に従来のアート作品に比して強く準拠するものであるがゆえに、人間の身体という精神と切り離せない一個の物質の存在感を浮き彫りにする効果をもつことはインタラクティヴ・アートの真に重要な側面である。すなわち心身の一体化、あるいは両者が二元論的に分離して思考できる客観的対象ではないことをインタラクティヴ・アートはいわば実証的に例証してみせてくれるわけである。このようにしてインタラクティヴ・アートは、それが低い水準のものであれば、たんなる身体的反応の誘因作用しかもたないものにとどまるが、それが高い水準のものであれば、心身の合一的反応の意味を人間主体に反省的に思考させる装置となりうるわけである。
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