国立劇場の雅楽関係の上演プログラム資料を集中的に調査、収集し、公演の内容の変遷とプロデューサーの企画意図を分析した結果(雑誌論文に発表、次ページ「研究成果」欄参照)、国立劇場では1970-90年代にかけて、奈良、平安時代の古い音楽様式や楽器の「復活」だけでなく、復元された正倉院の楽器を用いた、きわめて斬新な現代音楽の生成にも重要な役目を果たして来た実態の詳細が明らかになった。 また、海外の研究者の「復元」研究として、上海音楽学院の研究者の最近の論文で入手できたものの翻訳と分析を行った。その結果、中国の敦煌出土楽譜を日本の天平琵琶譜などと比較、解読する研究の基礎的方法論とその成果が明らかになった。しかし、中国でそれを実際の音楽として演奏する場合、どのような手法がとられるのかについては現段階では不明な点も多く、さらに調査が必要である。 また、本研究では、雅楽「復元」に関する研究論文、演奏会プログラム、CD、DVD等のデータベースを作成するが、本年度は、明治末に発行された雑誌『音楽新報』と、昭和初期に発行された雑誌『雅楽』のデータベースを完成させた。また、雑誌『雅楽』の記事分析から、昭和初期の雅楽の普及活動の実態が明らかになった(雑誌論文に発表、次ページ「研究成果」欄参照)。要約すると、大正末から昭和初期にジャズやハワイアンなどの西洋大衆音楽が流入し、従来の伝統音楽や西洋クラシック音楽に携わる人々に、「正統な音楽」や「高尚な音楽」に関する危機感が醸成されていたこと、また、大正天皇の大喪や昭和天皇の即位大典を契機として、雅楽が世の中にクロースアップされたことなどが重なり、雅楽を一般に普及させる活動がにわかに活発化したと考えられる。
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